犬をクレートに慣れさせておく理由
- 避難所では犬をケージに入れて過ごす
- 飛行機や電車はクレートで乗る
- 預け先ではケージで過ごす時間がある
- けがや手術のあとはクレートの中で安静にする
- クレートが家の中で落ち着ける場所になる
犬がクレートやケージに入る場面は、ふだんの暮らしの中に何度もあります。慣れていない犬は、入らなければならない場面で強いストレスを感じます。
避難所では犬をケージに入れて過ごす

避難所でペットを飼うには、ケージやキャリーバッグに慣れていることが必要です。犬はケージなどに入るのを嫌がらないよう、日ごろから慣らしておくことが飼い主に求められています(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」)。
避難所でペットを預かる場所では、キャリーバッグやケージに入れるのが原則です。避難生活では、ケージの中で過ごす時間が長くなります(大阪市「ペット同行避難対応ガイドライン」)。
過去の災害では、ケージに慣れていない犬に強いストレスを与えてしまった例があります。ケージに慣れていた犬は避難所でも落ち着いていて、ほかの避難者やペットとのトラブルもなかった例もあります(環境省「災害、あなたとペットは大丈夫?」)。
避難所にはペット用のケージが用意されていないこともあります。横浜市の地域防災拠点には、ペットフードやケージの備蓄はありません(横浜市「災害時のペット対策」)。犬の避難用品の例にも、扉の付いたクレートやケージが挙がっています。
飛行機や電車はクレートで乗る

JALとANAの国内線では、犬を客室に連れて入れません。犬はクレートに入れて預け、貨物室で運ばれます(JAL・ANA)。
クレートは、どちらの航空会社も硬い素材のものに限られます。JALでは、柔らかい素材のクレートや折りたたみ式のクレートは預けられません。長い時間ケージの中にいることに慣れていない犬はストレスを感じやすいので、旅行の前に慣れさせておくと安心です。
JR東日本の電車には、動物専用のケースに入れれば小型の犬を連れて乗れます。ケースは縦・横・高さの合計が120cm以内で、犬とケースを合わせて10kg以内が条件です。乗っている間は、犬をケースから出せません(JR東日本)。
預け先ではケージで過ごす時間がある

ペットホテルでの数日の預かりやトリミングのための数時間の預かりは、ケージなどで一時的に預かるものとして扱われています(環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」)。預け先によっては、迎えに来るまでの時間をケージの中で過ごします。
クレートの中で落ち着けることは、動物病院やトリミングや移動のときにも役立ちます。
けがや手術のあとはクレートの中で安静にする

犬の病気やけがの中には、治るまで動きを止めてクレートの中で安静にするものがあります。代表的なのが椎間板ヘルニアです。
手術をしない椎間板ヘルニアの治療では、4〜6週間の厳しいクレートでの安静が行われます。外に出るのは、リードを付けて排せつに行くときだけです。手術のあとにも、4〜6週間のクレートでの安静が勧められています。
手術のあとの安静と回復にも、クレートが使われます。
クレートが家の中で落ち着ける場所になる

クレートは閉じ込めるための道具ではなく、慣れれば犬が自分から入って休む場所になります。ケージやキャリーバッグを扉を開けたまま部屋に置いておくと、くつろいだり眠ったりする「安心できる場所」になります。
来客があるときや工事の人が出入りするときも、クレートは興奮やストレスから離れて一時的に過ごせる守られた場所になります。
クレートは、犬が落ち着いて安心できる場所にしておくものです。
なぜ犬はクレートを嫌がるのか
- 見慣れないものに警戒している
- 嫌な経験と結びついている
- クレートの中が落ち着かない
- 飼い主と離れるのが不安
クレートを嫌がる犬にも、嫌がるだけの理由があります。理由によって慣らし方の進め方も変わるので、まずは愛犬がどれに当てはまるかを見ます。
見慣れないものに警戒している

家に来たばかりのクレートは、犬にとって中がどうなっているか分からない箱です。においをかいだり外から中をのぞいたりしても、すぐには入らない犬もいます。
最初はクレートの中におやつを置いて、犬が自分のペースで探るのを待ちます。扉が急に閉まると犬が怖がるので、開けたまま固定しておきます。
初めて入ったときに扉が閉まって驚くと、クレートは怖い箱として覚えられてしまいます。子犬が自分からクレートで休むようになるまでは、扉を閉めずにおきます。
嫌な経験と結びついている

前は入っていたのに急に嫌がるようになった犬は、クレートと嫌な出来事が結びついていることがあります。注射のあとや長い留守番のあとに入らなくなったという声もあります。
キャリーや車に乗るのが動物病院に行くときだけだと、犬は移動を怖い出来事として覚えます。キャリーを見ただけで、病院に着く前から不安になってしまいます。
無理に押し込まれた経験も嫌がる理由になります。押したり引っぱったり追い込んだりしてクレートに入れるのは、嫌がる犬をさらに怖がらせるやり方です。叱られたあとに入れられることが続くと、クレートに悪い印象がつき不安や恐怖につながります。
クレートで嫌な経験をした犬は、気持ちを切り替える練習に時間がかかることがあります。初めて慣らす犬より、ゆっくり進めることになります。
クレートの中が落ち着かない

クレートに入っても、中で楽な姿勢がとれないと犬は落ち着きません。クレートには、犬が楽に立ち上がって向きを変えられる大きさが必要です。
床が硬いままだったり寝床がなかったりすると、中でくつろげません。クレートには、いつも快適な寝床を入れておきます。
クレートの中で楽にしていられなかったり排せつを我慢できなかったりすると、犬はますます不安になって出ようとすることがあります。年をとってトイレが近くなった犬では特に気をつけたいところです。
飼い主と離れるのが不安

クレートに入ること自体より、飼い主と離れることを嫌がっている犬もいます。扉を閉めた途端に鳴いたり飼い主が部屋を出ると暴れたりする犬は、離れることへの不安が考えられます。
成犬のクレートを飼い主の近くに置くと、ひとりぼっちにされることと結びつきにくくなります。子犬のクレートも、家族みんなが見える場所に置きます。
ひとりになると強い不安を見せる分離不安の犬は、クレートに入れても落ち着きません。クレートでは分離不安は解決せず、中でパニックになって出ようとしてけがをすることもあります。
激しくあえぐ・よだれを垂らす・必死に出ようとする・吠え続けるといった様子が見られる犬には、クレートは向いていません。クレートや留守番で強い不安を見せる犬は、獣医師に相談すると原因から見直せます。
犬をクレートに慣れさせる方法
- クレートは家族がいる部屋に置く
- おやつを使って自分から入るのを待つ
- ごはんをクレートの中で食べさせる
- 扉を閉めるのは数秒から始める
- 鳴いたら閉める時間を短くする
- 部屋を離れる時間を少しずつ延ばす
クレートの慣らし方には、ほぼ決まった順番があります。置き場所を決めておやつとごはんで中に入ることに慣らし、扉を閉める時間と飼い主が離れる時間を少しずつ延ばします。
クレートは家族がいる部屋に置く

クレートは、家族が長く過ごす部屋に置きます。子犬なら、家族みんなが見える場所が向いています。
扉は開けたまま固定しておきます。慣れるまでのあいだに扉が急に閉まると、犬が驚いてクレートを怖がるもとになります。中には寝床を敷き、犬がいつでも出入りして休めるようにしておきます。
おやつを使って自分から入るのを待つ

クレートに入れるときは、犬が自分から入るのを待ちます。小さなおやつをクレートの近く・入口のすぐ内側・奥の順に置いていくと、少しずつ奥まで誘えます。
おやつを点々と並べて、クレートの中へ続く道を作る方法もあります。犬がクレートに近づくたびに、中へおやつを投げ入れるのも一つの方法です。
はじめは首だけ入れておやつを取ったり、後ろ足を外に残したりする犬もいます。途中で押し込まずに、少しずつ奥まで入れるようになるのを待ちます。
ごはんをクレートの中で食べさせる

おやつで入れるようになったら、ふだんのごはんをクレートの中で食べさせます。クレートの中でごはんを食べると、中にいられる時間を延ばしやすくなります。
まだ中に入るのをためらう犬は、クレートの近くでごはんを食べるところから始めます。
最初は扉を開けたクレートにごはんを置き、最後は扉を閉めた状態で食べられるようにします。
扉を閉めるのは数秒から始める

ごはんを落ち着いて食べられるようになったら、扉を閉める練習を始めます。最初は数秒だけ扉を閉めてすぐに開けます。
初めて扉を閉めたときは、食べ終わったらすぐに開けます。2回目からはごはんのたびに閉めておく時間を数分ずつ延ばし、食べ終わってから10分ほど中で落ち着いていられるまで続けます。
クレートにいる時間を延ばすのは、最初は飼い主が同じ部屋にいるときにします。
鳴いたら閉める時間を短くする

扉を閉めたときに出たがって鳴くのは、閉める時間を延ばすのが早すぎたというサインです。
鳴いたときは、ひとつ前の短い時間に戻して練習し直します。扉を引っかくときも同じです。
扉を開けるのは、鳴きやんで静かになってからです。扉を引っかいたり吠えたりしている間に出すと、鳴けば出してもらえると犬が覚えてしまいます。
部屋を離れる時間を少しずつ延ばす

扉を閉めて10分ほど落ち着いていられるようになったら、飼い主が見えない時間に慣らします。クレートの横に静かに座って5分ほどたったら、そっと部屋を出ます。
部屋を出たら、姿が見えなくなった時点ですぐに戻ります。しばらく静かに座ってから、犬をクレートから出します。部屋の外にいる時間は少しずつ延ばし、30分になるまで続けます。
飼い主の姿が見えない状態で30分落ち着いていられたら、短い時間の留守番に進めます。家を出る練習も、数分の外出から始めます。
クレートに慣らすときの注意点
- 急いで慣らそうとしない
- シニア犬をいきなり閉じ込めない
- 叱るときにクレートを使わない
- 首輪を外してクレートに入れる
- 入れておく時間には目安がある
慣らし方の手順を守っていても、進め方や使い方を間違えるとクレートを嫌がる原因になります。慣らしている間も慣れたあとも、気をつけたいことがあります。
急いで慣らそうとしない
クレートに慣れるまでの時間は犬によって違います。数分で済むこともあれば数日かかることもあるので、あせらずに進めます。
1回の練習は、3分ほどの短い時間にします。
早く慣らそうとして扉を閉める時間を一気に延ばすと、犬は出たがって鳴くようになります。うまくいかない日があれば、前の段階に戻って落ち着いていられる時間から練習し直します。
シニア犬をいきなり閉じ込めない
若いころにクレートを使っていなかったシニア犬は、いきなり閉じ込めると不安が強くなることがあります。クレートに入ったことがない犬や入らなくなって久しい犬は、クレートに入れるだけで不安が増すことがあります。
年をとっていても、クレートに慣らすことはできます。ただし年齢が上だと、慣れるまでに少し時間がかかることがあります。
シニア犬は、扉を開けたままクレートで休めるようになるところから始めます。トイレが近くなっている犬は、クレートに入れる前に排せつを済ませておきます。
叱るときにクレートを使わない
いたずらをしたときや吠えたときに、罰としてクレートに入れるのはやめます。クレートは罰に使わないものです。家具を壊すなどの困った行動を防ぐために閉じ込めるのも、同じように避けます。
クレートは犬が落ち着いてくつろげる場所であって、罰を与える場所ではありません。叱られたあとに入れられることが続くと、犬はクレートを嫌な場所として覚えてしまいます。
首輪を外してクレートに入れる
クレートに入れるときは、首輪を外しておきます。クレートの中では、首輪が引っかかるおそれがあります。
首輪だけでなく、ハーネスも外しておきます。引っかかって犬がけがをするのを防ぐためです。
入れておく時間には目安がある
クレートに慣れた犬でも、長い時間入れたままにはしません。どのくらいまでなら入れておけるかの目安は、次の表のとおりです。
| 団体 | 入れておく時間の目安 |
|---|---|
| Humane World(アメリカ) | 生後6か月未満の子犬は1回3〜4時間まで。成犬は日中4〜5時間まで |
| イギリスのケネルクラブ | 子犬は日中2時間ほどまで |
| RSPCA(イギリス) | 慣れた成犬で3時間ほど |
| PDSA(イギリス) | 3時間まで。3時間より短くても耐えられない犬もいる |
| エドモントン・ヒューメイン・ソサエティ(カナダ) | 夜を除いて1回4時間まで |
子犬は排せつを長く我慢できないので、成犬より短い時間で出します。
一日中クレートに入れておくのは避けます。長い留守番になる日は、クレートの外で過ごせる場所を用意します。
どうしても慣れないときは専門家に相談する
- かかりつけの動物病院に相談する
- 行動の問題を診る獣医師がいる
- ほめてしつけるトレーナーに教わる
- 訓練所に預けて訓練してもらう
- 訓練の業者は登録番号を確かめる
慣らし方を試しても慣れないときや、クレートの中でパニックになるときは、飼い主だけで続けないほうが安全です。犬の行動の問題には、相談できる専門家がいます。
かかりつけの動物病院に相談する

最初の相談先は、ふだん診てもらっている動物病院です。クレートを嫌がる裏に、痛みや病気が隠れていることもあります。
困った行動の原因が恐怖や不安なのか体の不調なのかは、見分けてから治療が進められます。体の不調には、痛みを伴うけがや病気も含まれます。恐怖や不安が見られるときは、行動に詳しい獣医師への相談が勧められています。
行動の問題を診る大学の動物病院には、かかりつけの動物病院を通して予約する所もあります。かかりつけの獣医師に様子を伝えておくと、次の相談先にもつなげてもらえます。
行動の問題を診る獣医師がいる
動物病院の中には、犬の不安や恐怖などの行動の問題を専門に診る所があります。一般社団法人日本獣医動物行動学会は、行動の診療に詳しい獣医師を「獣医行動診療科認定医」として認定しています。
学会のホームページには、行動診療をしている動物病院の地域別一覧があります。行動の診療をしている病院は全国どこにでもあるわけではないので、住んでいる地域に載っていないこともあります。
大学の動物病院では、東京大学の附属動物医療センターの行動診療科が留守番中の吠えや物を壊す行動なども診ています。日本獣医生命科学大学の付属動物医療センターの行動治療科は、不安行動や恐怖症を診ています。
ほめてしつけるトレーナーに教わる
慣らし方を教わりたいときは、ドッグトレーナーに相談する方法があります。トレーナーを選ぶときは、ほめてしつける方法をとっている人を選びます。
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)は「認定家庭犬しつけインストラクター」を認定しています。認定インストラクターは、ほめてしつける方法を中心に飼い主にしつけ方を教えます。JAHAのホームページには、地域ごとのしつけ教室の一覧があります。
罰を使わない方法で教えるトレーナーを選ぶと安心です。押し込んだり叱ったりする教え方では、クレートがますます嫌な場所になってしまいます。
ダメ犬脱出、藤井聡の犬のしつけ方法【日本トップクラスのカリスマ訓練士 藤井聡 指導】オンライン版
訓練所に預けて訓練してもらう

家での練習が難しいときは、訓練所に犬を預けて訓練してもらう方法もあります。日本警察犬協会の公認の訓練所では、愛犬家の犬を預かったり出張したりして訓練しています。
日本警察犬協会のホームページには、都道府県ごとの公認訓練所の一覧があります。公認訓練所の訓練士は、協会の試験に合格した公認訓練士です。
訓練所に預ける場合も、家に帰ってからクレートを使うのは飼い主です。訓練所でどう教えたかを聞いて、家でも同じやり方で続けます。
訓練の業者は登録番号を確かめる

犬を預かって訓練する業者や家に来て訓練する業者は、動物取扱業の「訓練」の登録を受けなければなりません。登録は、事業所と業種ごとに都道府県知事などから受けます(環境省)。
登録した業者は、登録番号などを書いた標識を事業所の入口から見やすい所に掲げることが決められています。出張して訓練するときは、登録番号を書いた識別章を胸などに着けます。ホームページなどの広告にも、登録番号や動物取扱責任者の名前を載せることになっています。
訓練を頼む前に、標識や広告で「訓練」の登録番号を確かめておくと安心です。


